“テレビ視聴に革命を!文系家電メーカー社長の挑戦”

ガラポン株式会社
代表取締役社長
保田歩

インタビュー: 2014/05/09

大学卒業後、システム会社に入社。ウェブシステムのSEとして勤務する傍ら、趣味で始めたアパレル商品企画・販売業が時流にのってヒットする。その後、その事業を売却してヤフー株式会社に転職。新規事業の企画立案を担当し、多くの新規事業をプロデュース。2010年にガラポン株式会社を設立して代表取締役に就任。

生年月日:
1978年
出身:
東京都
出身校:
慶応義塾大学

- 小さい時はどんなお子さんでしたか?

友達と遊ぶのが大好きで、ドッヂボールでもサッカーでもとにかく遊びの中心にいるような子どもでした。小学校6年生くらいの時にブルーハーツというバンドの曲の「面白いこと考えて、みんなを楽しくさせたいな」という歌詞に出会い、「人生の答えを見つけた!」と思いました。それからずっと「こうやって生きていこう」という人生の指針です。

- 「テレビはつまらない」と言われて久しいですが、なぜ今テレビなのでしょうか?

私自身、「テレビはつまらない」とは全く思っていません。自分の好みに合わないバラエティ番組を見て「テレビはつまらなくなった」と言う人がいますが、オリンピックの中継も世界各地の紛争も、現代最高のクリエイターが作ったドラマや映画やアニメも、すべてテレビ番組です。バラエティ番組だって、現代社会で最も才能のある人々によって作られていると思います。要は、テレビ番組の質自体は高い。インターネットと比較して広告の市場規模も桁違いで、その広告売り上げを元に制作あるいは調達された番組自体の品質、面白さ、信頼性はインターネット専用に作られたコンテンツと比較して圧倒的に優れています。寧ろ、変わったのは視聴者のほうです。IT革命のおかげで、日々接するメディアや使用する端末が増えました。これによって人々は、本来多様な人間の価値観をより積極的に自覚するようになりました。自分の価値観を自覚した人々は、テレビ番組の一方的な情報発信に拒否感が生まれ、「テレビはつまらない」という発言をしているんだと思っています。本質的には面白いテレビ番組群と、それを一方的でつまらないと拒絶し始めた人々。私達はそこを最適化したいと考えています。

- その最適化が御社の目指す「テレビ視聴に革命を!」につながるんですね?

ガラポンTVは最大8チャンネルの全番組を録画(24時間全番組録画を最大120日分)することができます。録画した番組は、自分の好きな時間に好きな場所でスマホやタブレットで見られます。電車の中、海外、どこからでも見られます。全番組録画するので面倒な録画予約が不要で、ツイッターやFacebook、ニュースやまとめサイト、あるいは友達との会話で放送後に知った番組を確実に見られます。このように、テレビ番組の視聴を時間と場所の制約から解放することはテレビと人々の関係を最適化することの一つです。でもこれは、全番組を録画してどこからでも見ることのできる録画機を作れば誰でもできること。最も重要な最適化。それはソーシャルの活用です。例えば、8チャンネルで2週間に放送される番組は4000番組ほどになります。この4000もの番組から面白い番組を見つけようとした場合、テレビ番組表から探せというのはあまりにもナンセンスです。また、録画予約数や視聴数のランキングも本質ではありません。なぜなら、録画予約数や視聴数が多い番組が必ずしも自分に合う番組かどうか確証はないからです。そこで私達はテレビ番組のレビューサイトを作りました。番組に対してレビューや★評価を投稿できるようにし、自分好みの面白い番組をより発見しやすくするサービスです。この中で上位にランキングされたり、コメントが多くつけられたものは、誰もが面白かったと感じる番組だったということ。また、人々の好みは多様なので他者のレビューを読んでどうしてその番組が面白いと感じたのか?を知ることができるのは大きな魅力です。例え、いくら人が「面白い!」と叫んでいても、その人と自分の好みが違えば「面白い番組」は違いますから。番組を実際に見た人がレビューを書く→そのレビューを読んだ人が番組に興味を持ち、見てみたら面白かった。これが実際にガラポンTVのソーシャルサイトで日々起きている体験です。この体験の力強さを眺めていると、番組表を見て録画予約をさせる現在の主流方式から、全番組を全録画しておき、ソーシャルの力を使って自分の価値観に合った番組を発見し、視聴する方式を好む人が増えていくと考えています。こんなことを言うと、「ライブで番組を見る人がいなくなる」と心配する人がいますが、全録+ソーシャルが普及したほうがライブ放送の価値は高まります。音楽業界がCD販売のビジネスをするより、YouTubeなどで無料で曲を知ってもらってLiveに来てもらうビジネスへと移行しつつあるのと同じ理屈です。テレビ側からの一方的な番組の押し付け感と、「自分に必要な情報を検索したい」「自分のペースで見たい」というユーザー間で発生したミスマッチがテレビ離れを生んでいた。コンテンツの質は高いけれど、どの番組が自分にとって面白いのか分かりづらかったテレビ。それに対して面白いことを発見しやすく、情報を共有しやすいウェブ。テレビ番組を全てウェブの情報として扱い、ソーシャルコミュニティの中に放り込めればテレビ番組の面白さの再評価は必ず起きる。私達にとっての「テレビ視聴の革命」とは、「テレビ」と「人々のライフスタイル」の不一致をガラガラポンして最適化すること。弊社名も商品名も、こんがらがった問題を一度仕切り直す“ガラガラポン”という言葉からとったものです。ガラポンTVによって、人々のテレビ視聴が時間と場所の制約から自由になり、さらにソーシャルの力で「何を見るべきか」が分かるサービスこそ、我々の目指す「テレビ視聴の革命」です。

- ガラポンTVを作ろうと思ったきっかけは何だったのですか?

前職で新規事業の企画担当者だった時、テレビ画面で使う検索サービスを作りました。テレビの画面半分で放送中のドラマを見ながら、もう片方の画面でウェブ検索をするといったものです。その時、普通のウェブ検索結果ではなく、見逃した放送回の映像や今画面に映っている俳優の出演番組の映像を検索できればより良いのではないかと思ったのがきっかけです。テレビ上で放送済みの番組自体を検索可能にして、リモコンで選択すれば番組が再生できる。そんな世界観を実現するためには、テレビ番組がウェブ上に掲載されていなければなりません。そこで、テレビ局に意見を聞きに行くと「放送済みのテレビ番組を検索して、ウェブ上で視聴できるようになったら、リアルタイムでテレビ視聴する人がいなくなる」と断られました。1兆8,000億円のテレビ広告市場が、7000億円規模のウェブ世界に番組を提供したら、ビジネス規模が小さくなってしまうという理屈です。ここで一度壁にぶつかりました。次に、大手芸能プロダクションと協力してウェブ専用のお笑い動画サイトをつくりました。その時は、なんとか100万人ユーザーを獲得してテレビ広告費の1%でも狙ってみようとしましたが、結果的に視聴者を集められませんでした。一流の芸人さんや放送作家さん達がいても、テレビ番組と比較するとカメラの台数、ロケの有無、セット、編集にかけられるコスト、あらゆる面でかけられるコストは少ない。できあがったウェブ専用動画とテレビ番組を比べて「やっぱりテレビ番組は凄い」と思い知らされました。ここで第二の壁にぶつかりました。第一の壁、テレビ番組は面白いのでウェブと組み合わせたらもっと面白い展開ができるだろうけど、テレビ番組はウェブに掲載してもらえない。第二の壁、ウェブ専用に動画を作ればソーシャルと組み合わせて色々できるだろうけど、動画自体がテレビ番組ほど面白いものができない。そこで考えた方法が「個人宅に設置するテレビ番組全録画機+ウェブサービス」というガラポンTVです。

- ガラポンTV誕生当時、テレビ業界からは敵視されていたそうですね?

はい…でも今では各局と意見交換をしていますし、社内勉強会などにも講師として呼んでいただけるまでになりました。局がリアルタイムでテレビ視聴してほしい理由は、タイムシフト視聴されてしまうと広告費の指針になる視聴率計測から外れてしまうからなんです。でも、ガラポンTVを使ってテレビ視聴する人たちは通勤途中や外出先、ランチタイム中など、これまでテレビを見られなかった時間や場所で見ている。視聴率も大切ですが、何より重要なのは「テレビを見てもらう」こと。家のリビングから離れた場所でのテレビ視聴機会を増やすことで、面白い番組を認知してもらい、「今度はリアルタイムで見たい」と思わせる。テレビから離れつつあった人、メール・SNS・ニュース閲覧・ゲームアプリなどで使っている時間をテレビへと引き戻すことが大切です。一方、本質的なことを言うと、「視聴率を下げる=リアルタイム視聴を妨げる」のは「テレビに繋がれたハードディスクレコーダーやゲーム機」です。視聴者がテレビの前にいてリアルタイムの放送を見られる時間に、過去放送分の番組を見せたり、ゲームをさせたりしてリアルタイムの放送を見るのを止めさせているんですから。テレビ業界は複雑でしがらみの多い世界ですが、ガラポンTVという単一の製品で視聴者・テレビ局・広告主の三方にメリットがあり、視聴者が「やっぱりテレビって面白い」と思ってもらうことが理想です。その実現のために私達は日々努力しています。

- このガラポンTV、後にも先にも例がないユニークな商品ですね

ハードウェアをつくるには初期投資がかかり、在庫リスクもありますからソフトウェアビジネスと比較してリスクが大きいです。それに、テレビ番組を扱うには権利やルールが複雑で非常に難しいからだと思います。私は前職でそれらの権利に関する勉強ができていたのでラッキーでした。ただ、私はハードウェアを開発する知識が皆無だったため、ガラポンTVをつくるには仲間が必要でした。現にベンチャーキャピタルにも、「なんで文系の保田くんが家電をつくれるワケ?」と最初は出資してもらえなかったですしね。一人では当然このような事業はできないわけで、仲間に恵まれていることに感謝しています。仲間は社員だけに限らず、社外の投資家や取引先、ガラポンTVを応援してくださる方々も仲間です。信頼できる仲間と自分たちのサービスで世の中をより良い方向へと変える夢を追う。とても充実しています。

- 商品開発などで失敗談はありますか?

製品の型番変更と中国の製造工場の変更を同時に行うタイミングがありました。製品の設計や製造のディレクションは台湾のパートナー企業とおこなっているので作業工程の指示書や手順書は私達も台湾で確認したんですが、その先は台湾のパートナー企業に任せて中国の製造工場までは行かなかったんです。正確には、日本でやることが山積だったため行けなかったんですが…。そうしたら先行納品分500台のうち4台に1台が不良品であることが日本に着荷してから分かって、社員みんなで徹夜してフラフラになりながら全台を1台1台オフィスで選別したことがありました。その時から「良い思い出になるね」なんて言いながら作業してましたが、今思い返してもやっぱり良い思い出ですね(笑)

- 今後の事業の展開はどうお考えですか?

まず、私達は家電メーカーをやりたいわけではないのでサービス企業として日々ユーザーにガラポンTVのサービスを使ってもらい、ビジネスが成立する姿を思い描いています。その際は、ガラポンTVを家電量販店で売り切り販売するよりもプロバイダや携帯会社と提携し、月定額でガラポンTVをユーザーにレンタルして使ってもらうほうがユーザーにとっては初期導入コストが低く、相応しいと思います。もう一つは、ガラポンTVでどういう番組が誰にどれだけ見られていて、CMがどの部分で飛ばされているのか、視聴者のその後の行動まで把握できる視聴ログデータを利用したビジネスも考えています。ただ、既存の視聴率を中心としたビジネスモデルを破壊するようなことは全く考えていません。なぜなら、既存のビジネスモデルがあるからこそ面白いテレビ番組が放送され、私達のような録画機サービスが存在できるからです。既存のビジネスモデルの価値を更に高める方向で、ガラポンTVの視聴ログデータも活用していきたいと考えています。また、中南米の10ヵ国、アフリカの20ヵ国、フィリピン、タイでもワンセグは導入済み(もしくは導入予定)ですので海外展開も視野に入れています。

- 著書も出版されたそうですね

『文系の僕はテレビ視聴の革命をめざし家電メーカーを起業した』という本で、帯は伊集院光さんに書いていただきました。私が大学で専攻していたのは文学部美学美術史というド文系。文系なのに家電メーカーを創業し、大企業しか存在しない巨大で安定したテレビ業界でベンチャー創業という、普通に考えると超あり得ないことをしています。その無謀な挑戦を綴ってみました。テレビ業界には利害調整用の団体がいくつもあって、そこでテレビ放送に関わる様々なルールが決められています。団体に属せない私達のような会社は、何も知らずに一生懸命走っている間に競争のルールが変わってしまったなんていうことだってあります。そして、販売店、流通、製品を紹介する批評家/批評誌、既に成立して回っているビジネス生態系があるからこそ、そこから逸脱した新参者は基本的に歓迎されません。日々、悔しい思いを沢山しますが本来それは当たり前で、成熟産業ですからベンチャーが生きるための世界ではないんです。普通にしていたら即死ぬ(倒産)んです。この本の冒頭は「僕は毎朝、徹底的に絶望し切った状態で目が覚める」…これ本当です。だから必死で困難な状況を突破する方法を考えます。そうして、到底乗り越えられないと思っていた壁を仲間と協力して突破できた時の喜びはこれ以上ないほど大きいです。私の座右の銘は「面白いこと考えて、みんなを楽しくさせたいな」自分達が楽しくワクワクするようなことしていないと、みんなを楽しくすることなんてできませんから。

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