働くことの本質を見直せる名言に出会う|書籍紹介#003《エンゼルバンク》
「応募者の心理や気持ちが知りたい」
「人事としてもっとできることは無いだろうか……」
働く人の心理や本質を見極めて調整するのも人事の仕事とはいえ、日々たくさんの従業員が働いている会社の中では、思うようにいかないこともあるはず。
書籍を読んだり、同僚や上司に相談して自分なりに考えを整理して、日々頑張っている方も多いと思いますが、たまには息抜きに漫画でも読んでみませんか?
もちろん息抜きの意味合いもありますが、働くことをテーマにした漫画には、企業で働く様々な人の問題を解決するヒントが隠れていることもあります。
そこで今回おすすめするのが、三田紀房『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』(講談社)です。
社会現象にもなった『ドラゴン桜』の転職版とも言えるこの作品には、採用担当者ならどこかで会ったことあるようなタイプの求職者が数多く登場し、主人公の転職代理人は彼らが本当に幸せになれる道を模索します。
読みながら「わかる!あるある!」と共感したり、ときには自分の行いを思い出してぐさっときたり。
今回は作中に出てくる台詞から、一社会人としてはもちろん、人事担当者としても心に響く名台詞を厳選してご紹介します。
- エンゼルバンクのあらすじ
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龍山高校で教師をしていた井野真々子は、教師の仕事に飽きてしまい転職代理人として転職サポート会社に入社。
しかし、上司になった海老沢康生は「日本支配計画」なるものを実行する破天荒な人物で、どうにも掴みどころがなく、井野はつい反発してしまう。
学校から人材紹介というまったく別の環境の中で、井野は様々な問題を抱える転職希望者と向き合い、海老沢や桜木などのアドバイスを活かしながら転職代理人として成長していく。
目次
「社会で成功する第一歩はまず相場を知ることです」
「自分の価値は自分で決める。」
自分を認めてあげられるのは、とても素敵なことですよね。
しかし、自分の価値を見極めるにしても、何を基準にすればよいのか迷う方もいるでしょう。
そこで基準となるのが、需要と供給から見えてくる社会の相場であり、その縮図がこの本のタイトルにもなっているエンゼルバンクなのです。
お菓子のについている金のエンゼルと銀のエンゼルに適正な価格をつけて、必要ない人から買い、欲しい人に売ることで利益を得る。
海老沢は金のエンゼルと銀のエンゼルの相場を見極めることで、利益を出すことができました。
では、自分のスキルをエンゼルと考えた時、社会でどのくらい求められているのか。
社会の相場を知った上で自分の価値を決めることが、社会の中での自分の適切な価値を決めるのです。
この相場は変化し続けるため、自分を定点観測して値動きをグラフ化すると、転職やキャリアアップの時期が見極めやすくなるでしょう。
もちろん、これは採用側にも大切な感覚であり、自社に必要な人材が相場の中でどの程度の価値があるのか定期的に確認して勤務条件等を見直すことで、採用だけでなく既存社員の流失を防止できるでしょう。
「世の中って非常識な人たちの集まりなんだよ」
受け答えが曖昧だったり、履歴書の写真の目が半開きだったり。
いい大学を出て、それなりの企業に努めているのに、なぜか社会人として頼りなさを感じる求職者について井野が愚痴ったときに、海老沢が言ったこのセリフ。
例えば、電話がきたら5コール以内で取るのは社会人として常識と、新卒の頃に教わった方も多いはずです。
しかし、実際にできている会社は意外と少ないと思いませんか?
だからこそ、常識だと思っていることができているだけで、取引先は自然と安心感や信頼を持ってくれます。
面接では、つい話の内容やインパクトのある数字に目を取られがちですが、「常識」「基本」と呼ばれるような言動が身についているか、身に付けられそうかが実は大切なのです。
「当たり前の事がきちんとできる。」それは、ときに想像以上の大きな成功を掴むチャンスを運んでくるかもしれません。
「仕事に中身や報酬を求めているんじゃないんだ 感情を求めているんだ」
エンゼルバンクの中で何度も出てくる「感情」というキーワード。
求職者の方々からは転職したい理由としていろいろな事情がでてきますが、いくら条件が良く、仕事の中身が面白そうでも、それが決定打にはならないというのです。
「うちの企業はこんなに給与がいい」
「福利厚生や働きやすさを充実させている」
そういった表面的な条件も企業の魅力ではありますが、誰しも最終的な意思は「感情」が決める。
結局のところ、どんなに条件が良くても「この会社で働きたい」と思えるかが重要なのです。
感情という曖昧とも思えるものが意思決定に大きく関わっているからこそ、面接では相手と対等な立場に立って、彼らをよく知り理解しようと努力することで、歩留まり改善などの効果が期待できるかもしれません。
「仕事を考え出して初めて大人になれるんだよ」
このセリフに「自分は大人だと胸を張って言えるだろうか…。」と考え込んでしまう方もいるのではないでしょうか?
正直、かなりグサリとくる言葉ですよね。
「会社に行って上司から任せられた仕事をする」
当たり前のように感じますし、それをしてくれる人がいるからこそ会社は回っているという部分ももちろんあるでしょう。
しかし、海老沢は人から与えられたものは仕事ではなく作業だと言います。
たしかに、与えられた仕事だけをしている人と、「今のうちに資料作りをしよう」「新しいプランを考えてみよう」と自ら動ける人、どちらを採用したいかと聞かれれば、ほとんどの人が後者と答えるはずです。
雇用形態によってはそこまで求める必要は無いかもしれませんし、面接で見抜くのは難しい部分ですが、評価の際にこの視点を思い出してみると、従業員のやる気や仕事の出来などを評価しやすくなるのではないでしょうか?
「人は 人に教えるとき 人を育てるときに成長するんだよ」
中途採用を行っていると、新卒採用をして一から育てる大変さと比較してしまったり、新卒研修などのために膨大なお金や手間を掛けることに疑問を感じてしまうことってありませんか?
しかし、エンゼルバンクの中で海老沢は「新卒採用とは既存社員ために行われている」と断言します。
人に何かを教えたり叱ったりする時、私たちは考えを整理したり、自分が新卒の頃はどうだったかと初心に戻って物事を考えようとする。それが既存社員の成長を促すというのです。
たとえば学生時代。友人や後輩に勉強を教えようとした時、自分の中で整理しながら話すうちに理解が深まるという経験をしたことがあるのではないでしょうか?
そのような経験から考えれば、この発言も頷けます。
また、その後に海老沢はこう続けます。
「人が人を見抜けるなんて傲慢な考え方だよ」
採用活動で頑張って良い人材を採用しようと思っても、書類や面接、実技試験ではどうしても限界があります。
だからこそ、採用後の成長に期待して、育てる方に力を入れたほうがより合理的である、と。
この考えに賛否はあると思いますが、書類や面接だけで人の本質を見抜くのは想像以上に難しいことであるからこそ、今いる社員をどう成長させるかに目を向けてみることが、企業の成長に繋がるのかもしれません。
さいごに
社会人生活が長くなると、働くということに慣れてしまい、いい意味でも悪い意味でも感覚が麻痺してしまいがちです。
エンゼルバンクは、そんな鈍ってしまった感覚に突き刺さる台詞も多く、読みながら社会人としての姿勢を見直す事ができました。
「みんなそうしているから」「会社でそう決められているから」と思考停止してしまうこともありますが、人事は学生や求職者にとって会社の顔とも言える立場だからこそ、働くことへの姿勢や感覚を定期的に見直し、アップデートすることで、相手をより良い関係を築けることもあるでしょう。
エンゼルバンクは、その見直しができる名言が数多く詰まっているので、興味のある方はぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか?

