“iPS細胞の持つ力を応用し 次世代医療への貢献を目指す”

株式会社リプロセル
代表取締役社長
横山周史

インタビュー: 2014/06/27

東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程を修了(博士号取得)後、マッキンゼー・アンド・カンパニー、住友スリーエム株式会社を経て、2004年に株式会社リプロセルに入社。取締役事業開発部長を務めた後、2005年代表取締役社長に就任。ES細胞/iPS細胞ビジネスのパイオニアとして、研究試薬、創薬支援、臨床検査などの分野で事業展開を進め、健康福祉への貢献を目指す。

生年月日:
1968年
出身:
大阪府
出身校:
東京大学大学院

- 生い立ちについてお聞かせください

父は製薬企業の研究者で、母方の実家が会社を営んでいました。父のおかげで研究は身近にありましたし、祖父母の家で顧客対応をしている様子などを見て、商売というものを肌で感じる機会が多かったです。今思い返せば、研究職と経営という意味で影響を受けている部分もあるかもしれませんね。

- 大学院修了後は、研究者の道ではなく就職を選ばれたのですね

大学院では博士課程まで進んだのですが、大学に残って研究を続けるよりもビジネスをやりたいという気持ちが強く、就職の道を選びました。でも、研究に打ち込んでいた頃の経験は、社会に出た後も大きな糧になりました。研究や開発というのは、常に新しい現象や技術を追求していくということです。その姿勢はビジネスをする上でも非常に大切なことだと思います。

- 社長就任に至るまでの経緯をお聞かせください

リプロセルは、京都大学再生医科学研究所所長(当時)の中辻憲夫教授と、東京大学医科学研究所の中内啓光教授がファウンダーとなって設立された会社です。2003年、体内の全ての細胞腫に変化可能な「万能細胞」と呼ばれるヒトES細胞が樹立された年でした。ただ会社はできたものの、オペレーションをする人間がいなかったんです。そこで私に声がかかり、経営に参画することになりました。当時はまず「この状態を何とかしないと」という感じでしたね。知財や基礎技術はあるもののプロダクトがない、事業としては白紙の状態でしたから。ビジネスモデルの確定に始まり、資金集めに人集め…本当にゼロからのスタートでした。

- ご苦労も多かったのではないですか?

大変だったのはやはり資金繰りですね。ベンチャー企業が創業から研究開発を進める中で、デスバレーという倒産の危機に陥ることがありますが、当社も危うくその死の谷に落ちそうな局面がありました。何とか回復を遂げることができた理由は2つ。1つは、夢物語や理想だけを追うのではなく、着実で現実的な計画に沿って事業を進めていたからだと思います。当時のES細胞の研究は、「夢の再生医療」と求める声がほとんどでした。しかし再生医療は、技術的にもすぐに実現できるものではありません。それよりも私たちは、創薬への応用や研究試薬の開発を地道に進めていこうと決め、取り組んでいました。またもう1つは、京都大学の山中伸弥教授によって、ES細胞と同様の性質を持つiPS細胞が生み出されたことです。これは当社にとって非常に幸運な出来事でした。受精卵を使って作るため、倫理的に問題があったES細胞に対し、iPS細胞は皮膚からでも作られる「万能細胞」です。それまで培ってきたES細胞の技術をiPS細胞に応用することで、さらなる事業の拡大を実現することができました。

- 現在は、iPS細胞関連事業を中心に展開されているのですね

iPS細胞は、難しい言葉で言うと「多能性幹細胞」といい、あらゆる細胞や組織に分化する性質を持ちます。このiPS細胞がもっとも注目される分野といえば、何といっても再生医療ですよね。ただこの他にもiPS細胞はさまざまなビジネス展開が可能で、当社では現在、主に創薬と研究試薬の分野で事業を進めています。創薬というのは新薬の開発のことで、iPS細胞を使って病気のメカニズムを研究することにより、高品質かつ副作用の少ない薬のスピーディな開発に役立てようというものです。また、iPS細胞の研究のためには当然培養液などの研究試薬や実験器材が必要になるので、それらの開発・販売を行っています。

- 社内で大切にしている文化などはありますか?

何よりもチャレンジする姿勢を大切にしています。フロンティアスピリットを持ち、常に新しいことに取り組んでいくことですね。新しいことには失敗はつきものですし、たとえ失敗したとしても一向に構いません。逆に、何もせず何も起こらない、という状態は当社でもっとも望まれないことです。また、よく社員に話しているのが「誠実と信頼」の大切さです。目先の利益を追うのではなく、長期的な信頼関係を築くことを重視し、何事にも誠実に取り組むことが当社のポリシーです。

- 研究をビジネスとして展開するのは難しさも多いのではないですか?

研究とビジネスはやはり別物です。もちろん技術は重要ですが、素晴らしい技術が必ずしもビジネスとして成功するわけではありません。逆に、技術的にはあまり優れていない研究成果であっても、ビジネスにおいては成功をおさめるというケースもあります。たとえるなら、技術というのは料理の素材。ビジネスはそれを調理する手段です。いくら素材がよくても、料理人の腕が悪ければ美味しい料理はできませんよね。そこが難しさでもあり、ビジネスの腕の見せ所でもあると思います。実はバイオテクノロジー業界全体の傾向として、どうしても技術の追求を先行させてしまう面があり、営業やマーケティングの分野などはやや弱いところなんですよ。他業種での経験を持つ方にもどんどんバイオの世界に入ってもらい、さまざまなノウハウを活かして活躍の場を広げてほしいと思います。

- 好きな言葉はありますか?

以前本で読んだ「調子のいい時には窓の外を見て、調子の悪い時には鏡を見ろ」という言葉が印象に残っています。窓の外とは他人、鏡は自分のことですね。調子のいい時には周りを見て感謝しなさい、調子の悪い時には他人のせいにしないで自分を振り返りなさい、という意味です。人間というのは得てして逆に考えがちですが、自分を戒める意味でも大切にしている言葉です。

- 起業を志す方へのメッセージをお願いします

若くして起業するのはいいことだと思います。若いうちはアイディアや馬力もあり、人生を賭けようという情熱もあるでしょう。また、起業のリスクは誰しもあるものですが、もし失敗したとしても若ければやり直しができます。年齢が上がるほど背負うものも大きくなってしまうので、悩み続けていたずらに年月を過ごすくらいなら、リスクを恐れず起業する方がいいと思います。

- 目指すビジョンを教えてください

iPS細胞ビジネスのパイオニアとして最先端の研究成果を広く事業化し、この分野で世界のトップ企業になることです。市場規模の大きい欧米にも拠点を構えるなどしてネットワークを強化し、グローバル展開を進めていきたいですね。そして将来的には、やはり再生医療の分野に取り組んでいきたいと考えています。iPS細胞の応用によって、これまで治療法が確立していなかった病気の根治や予防、薬の副作用の軽減など、人々の健康に直接貢献したい。それが私たちの一番のやりがいであり、最終的な目標です。