“デジタル総合対応を強みに 希少な人材を次々と育成”

株式会社スパイスボックス
代表取締役社長
田村栄治

インタビュー: 2014/07/18

大学卒業後、株式会社博報堂に入社。営業局にて国内外の広告宣伝業務、外資系企業の国内マーケティングに携わる。2001年にサイバーエージェントへ転職後、自社メディアの開発・運営・広告事業を統括し、デジタルコミュニケーション領域でのキャリアをスタートさせる。2003年、日本初のデジタルエージェンシー、スパイスボックスを設立。

生年月日:
1968年
出身:
東京都
出身校:
慶應義塾大学

- 小さい頃はアメリカで過ごされたとか?

小学校1年生~4年生までを父の仕事で米国のニュージャージーで過ごしていました。アルファベットも知らないまま現地校に入学したので、自分では苦労したという記憶はないんですが、親の話だと夜中にうなされたりしていたみたいです(笑)。言葉が通じない中、意志表示をはっきりすることでコミュニケーションをとっていたように思います。その後、4年生の途中で日本に帰国したんですが、米国で身についた自己主張が煙たがられてしまい、いじめられたりもしました。アメリカに転入した時も、日本に帰国した時も、新しい環境に入る時には何かとケンカばかり。でも、そのうち仲良くなる…というパターンが多かったですね。

- 起業したいと思うようになったのはなぜでしょう?

大手企業に勤めて苦労しながら着実にキャリアを積む父を見て、自分は違う道を歩んでみたいと、安定志向ではない大きなチャレンジをしてみたいと考えていました。高校3年の時に将来は自分で会社を興したいと思い、最初は「文系で資格」というロジックで弁護士になろうと大学は法学部に入学。しかし、もともと法律に興味があった訳ではなかったので途中で挫折してしまいました。その後大学在学中に、帰国子女を集めた通訳・翻訳者の人材集団を立ち上げ、イベントや企業に派遣する仕事を始めました。その時にプロモーションイベントやスポーツイベントに関わり、広告の仕事の楽しさを実感したんです。表舞台を支えるための企画や制作といった、裏方の陰のプロフェッショナルたちの仕事ぶりにとても魅了されました。

- 大手代理店から起業までの道のりを教えてください。

博報堂面接の際、人事担当者に「自分は起業志向があるので5年で辞めます」と正直に伝えました。その方は僕の思いを前向きだと評価してくださり、「役員面接では言わないように」と釘を刺され(笑)、入社が決まりました。途中、5年では充分に学べないことがわかり、結局10年間勤めました。30代前半になり、営業実績はある程度残せていましたが現場仕事が中心だったため、マネージメントや経営の経験を積んで、将来に向けた準備も始めなければと思い始めた頃、先に転職していた博報堂の後輩から強く誘われてサイバーエージェントに入社をしました。広告業界経験者として入社したものの、デジタルやネット領域のキャリアは皆無でしたので最初は非常に戸惑いましたね。それでも子会社の立ち上げから関わらせてもらったり、チーム統括の立場で仕事ができたりと様々な実績を積ませてもらい、たくさんの経験とスキルを得られました。そして、2003年にスパイスボックスを設立したというわけです。

- スパイスボックスという社名もユニークですね?

まずスタッフ一人一人が個性を持った存在=スパイスのようであること、会社はその個性の集合体=Spice Boxでありたかったこと。そしてクライアント企業のコミュニケーションに趣を添える=スパイスの役割を担いたいという思いからつけた名前です。また、デジタル領域の総合広告代理店ではありますが、いかにもデジタルという名前にはあえてしませんでした。

- 日本初のデジタルエージェンシーに乗り出したきっかけは?

当時の広告マーケティング業界は、昔ながらの総合代理店とインターネット専業代理店との2分化が主流で、ちょうどデジタルの勢いが出はじめていた時期。当時のネット代理店はいかに効率よく広告枠を売るかという営業主体の会社で、戦略構築やクリエイティブといった領域には深く取り組んでいませんでした。将来的には莫大な広告予算を持つナショナルクライアントも、必ずインターネットを利用したマーケティングへもっと多くの予算を投下するだろう。ならばデジタル分野において、トータルで戦略から実行までをワンストップでサポートする代理店が必ず必要になると、両分野を経験したメンバー5人でスパイスボックスを設立しました。弊社はプロデューサーやプランナーの集団ですので内製はせず、制作会社やソリューション会社と良いパートナーシップを結ばせてもらっています。プロジェクトごとに、個々のクライアントにとって最適な社内外スタッフの組み合わせを提案しながら全体をプロデュースするというのが大きな特徴です。

- 社内で大切にしている文化や、芯となるような考え方はありますか?

事業面で言えば、「デジタル領域で総合対応するエージェンシー」という弊社の屋台骨は創立から11年目の今でもずっと一貫していますね。また、「自由と責任の両立」を前提とした価値観や文化も重要視していて、社員全員で守るべき行動規範「スパイスボックス10の約束」を定めて小冊子にしたりもしています。弊社のようにクライアントと直接関わるフロントを張る仕事では、その瞬間の判断や行動が仕事を左右するため、一人一人が能動的に動けるよう教育し、高いプロ意識を持って仕事に取り組む風土をつくっています。私が個人的に心がけてきたものは、「食わず嫌いをしない」こと。人間関係でも仕事でも、トライせずに印象や周囲の声に惑わされると機会損失につながるので、学生時代から自分の目で見て体感してから判断をするようにしています。弊社の社員たちにも「食わず嫌い」はしないでほしいですね。

- 独自の人材教育に取り組んでいらっしゃるとお聞きしました。

デジタルを総合的に対応できるプロデューサーの存在が弊社の特徴でもあり、最大の強みです。この人材を増やすことが弊社の成長に直結することから、人材育成には非常に力を入れています。今年から採用/教育部門を拡大しようとHR(Human Resource)局という専門組織を編成し、「総合対応人材をスピーディに大量輩出するプログラム」と、組織の拡大に伴って「ミドルマネージメント職を育成するプログラム」の2つの研修プログラムをイチからつくり直しました。総合対応するためのスキルというのは、データ分析や制作プロデュース、メディアプランニング、PR、テクノロジー活用など種類が多々あるので、誰がどの分野をどれくらいできるのか、半期ごとに棚卸してレーダーチャートで可視化します。自分の弱点を理解でき、どこを強化すべきか明確にすることで、適切な目標設定と業務付与がしやすくなります。このように各社員がスキルアップを図りやすいような工夫は常にしていて、弊社では新卒1年半目には独り立ちをして外部のパートナー会社とプロジェクトを進行させ、クライアントに対してサービスを提供するところまでできるようになります。また年功序列ではなく若手でも抜擢するような人事制度を取っているので、価値の高いプロフェッショナルに成長すれば、若くても重要なポストに就くことができます。昨年からYoung Boardという仕組みを導入し、半期に一度20代を中心とした若手社員のなかから将来会社を牽引してくれそうなメンバーを役員間で選び、経営人材の早期育成に取り組みはじめました。社長・副社長と一緒にミーティングをし、彼らが考える「今、必要な経営課題」に対して予算をつけて実行させています。彼らにとっては通常業務との兼業になり、稼働の20%をそこに割いてもらうのですが、当然追加の報酬も支払います。

- ご苦労された経験などございますか?

設立5年目で赤字になった年がありました。拡大成長のために中途採用を急激に増やし、営業力や知名度が不足しているなかで人件費だけが膨れ上がったことが原因でした。弊社では毎週月曜日に経営状況や業務トピックスを報告する全社朝会を開いており、その時も業績悪化の状況は社員も理解していました。頑張っているけど儲からない、閉塞感が漂いがちな社内を、前向きかつチャレンジングな雰囲気に変えるのには苦労しましたね。翌年には大幅に挽回できたので今となってはいい思い出です(笑)。

- 今後の展開について教えてください。

弊社のように総合対応ができるデジタルエージェンシーは、ニーズがあるにも関わらず日本ではまだほとんどないのが実情です。このポジショニングをより強くするためにも、また育成基盤が強化された今だからこそスタッフをもっと増やして会社としての規模を急拡大しようと考えています。事業としては、「データを取り扱う力を強化すること」「テクノロジーを使い、クリエイティブの効果をあげること」を重要ポイントにしています。その基盤にあるのは「総合対応人材」の母数の拡大。この数年間でその数を圧倒的にすることで他社との差別化を図りたいと考えています。

- 御社、もしくは広告業界を目指す人たちへのメッセージをお願いします。

デジタルマーケティングの領域において総合力を持つ人材は希少価値が高くニーズがあるので、経験を積みながら価値の高いプロになりたいという意識の方には是非弊社に来てほしいと思います。また、弊社の品質を支えるスペシャリストであるプランナー、データアナリスト、テクノロジストといった人材も募集しています。ひと昔前の広告業界ではコピーライターやプランナーなど、どの分野でも大御所がいるような世界でしたが、今のデジタル業界ではそういった年功序列的なヒエラルキーはほぼ存在しません。逆にデジタルネイティブの若い人たちが年齢を飛び越えてスポットライトを浴び、どんどん活躍する時代です。大きな変化が起きている今の広告業界は一番やりがいのある環境だと思いますよ。

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