“書籍業界に新たな挑戦を! 電子書籍のパイオニア”

株式会社パピレス
代表取締役社長
松井康子

インタビュー: 2014/08/08

大学在学中、富士通の社外ベンチャーとして創立したばかりの株式会社パピレスに入社。編集や経営企画に携わり、その後2000年に取締役、2006年には副社長に就任。2012年6月に創業者である天谷幹夫氏に代わり、代表取締役社長となる。

生年月日:
1969年
出身:
新潟県
出身校:
慶應義塾大学大学院

- 学生時代にパピレスに入社されたのだとか?

大学院では歴史の研究をしておりまして、海外の文献や資料を調べたり取り寄せたりするのに非常に苦労していました。インターネットなら自宅にいながら海外の情報が手に入るという話をちょうど聞いていたのですが、周囲はまだまだワープロ・パソコン通信の時代。そんな時、ネットワークで本を配信する会社が立ち上がったという噂を聞き、もともとの本好きも幸いして画期的な事業に携わりたいと応募したのがパピレスでした。パピレスは弊社の創業者天谷が、富士通株式会社の社外ベンチャー企業として設立した会社で、社名には「紙(パピルス)が不要(レス)になる」という意味が込められています。入社当時は社員数名の小さな会社。私は最初、本の編集に携わりました。次に、マーケティング業務である経営企画を経て、管理部門に異動。2010年の株式上場に向けて準備を始めたという経緯です。

- 電子書籍のパイオニアとしてご苦労されたこともあったのでは?

出版社に電子書籍の許諾をいただくのが、最初はなかなか理解を得られず大変でした。PCを使って本を読むこと自体が想像できなかったようで、お話に行っても「パソコンで本は読みませんよ」と諭されたほど。とにかくお見せする現物がなかったので、出版社回りをしていたスタッフたちは本当に苦労したと思います。そんな中、理解を示してくださり、「やろう!」と言ってくださったのは近未来を描くことの多かったSF作家さんたち。本当に助かりました。100冊の許諾をいただくのに1年かかり、第1号は既に著作権が消滅していた夏目漱石の『坊ちゃん』。現在17万冊ですから、最初の100冊は非常に重く、思い入れのある作品たちです。出版業界というのは再販制度で成り立つ一種独特の世界で、参入障壁が高く、業界に入り込むこともそれまでの慣例を崩すことも、とても大変なのです。2000年には各電機メーカーからPDAが発売され、その後何度かの電子書籍ブームが到来し、一般化したという印象を持ったのは2003年に携帯電話へのサービスを開始した頃からですね。さらにスマートフォンとタブレットが出回り、今では電子書籍と言っても分からない人はほとんどいないくらいまでになりました。

- 社長になられて、目指す会社像はございますか?

1995年に書籍のデータ配信という、他では誰もやっていない事業に乗り出した会社ですので、その思いは引き継ぎたいと思っています。多くの本好きが集まる会社ですので、この分野で常に新しいことに挑戦する企業でありたいと考えています。私自身、“何ごとも前向きに”という言葉を常に心がけ、年齢を重ねても常に新しいこと・人がやっていないことにチャレンジし続けていきたいと思っています。私も会社も進むべき方向は同じですね。

- 社内で大切にされている文化などはございますか?

経営理念のなかに「楽しいと思える仕事をしよう。もし楽しくないのなら自分で仕事を変えていこう」という言葉があります。自分が楽しいと思える・興味を持てる仕事でないと、良い仕事にはなりにくい。楽しく感じられないことを我慢して続けたとしても良い結果は生まないと思うのです。人生は限りあるもの。そこに時間を費やすのは勿体ないですよね。私自身、「何事も勉強になる」とプラスに考えることで難局を乗り越えてきた経緯があります。例えば上場の準備なども、通常業務に支障がないように全ての書類を同時進行で作成し、社内の体制を整えつつ進めていったので本当に大変でした。でも「なかなか経験できないことを経験させてもらっている」と思うことで、前向きに取り組むことができたのです。社長職もたまたま機会に恵まれたのだと思っていて、滅多にない貴重な体験をさせてもらうという気持ちでお引き受けしました。

- 現状のサービスについてお聞かせください。

本のレンタルサービスRenta!は、「48時間100円から読める」をキャッチコピーに2007年4月からスタートしました。ダウンロードやビューワーは不要で、ブラウザで本が読めるのが特徴です。当初は24時間でしたが、ユーザーから「短すぎる」という声があがり48時間に設定。100円という分かりやすさと手軽さで、受け入れられたという感触があります。暫くすると、出版経験のない方たちから「本を出したい」という問い合わせをとても多くいただくようになりました。そこで、立ち上げたのがUpppi(ウッピー)です。Upppiは、クリエイターたちが手軽に作品を投稿でき、編集や改訂もしやすく、読者からの意見ももらえるサイト。書店に並べようとすると必ず発生してしまうクオリティや編集作業の問題を打壊した画期的なサービスになっています。作家さんの意思で公開・非公開も選ぶことができ、仲間内だけで公開し、編集し合う同人誌のような機能もあります。書籍編集での修正や校正をメールでやり取りするのは非常に煩雑ですが、これを使うとIDで結びついた相手と編集し合えるので便利に利用していただいているようです。

- 今後の展開はどのようにお考えですか?

次世代コンテンツとして、「コミックシアター」と「絵ノベル」をリリースしています。コミックシアターは、マンガを読んでいる感を残しつつ、心理描写や吹き出しなど一部がアニメーションのように動くマンガです。ユーザーさんからの要望でスピードも選べるようにし、スライドショーのように自動に読み進められます。どこを動かすか、どこを強調するかが編集の腕の見せ所で、現在試行錯誤を繰り返しながら開発しています。絵ノベルはRPGやノベル系のゲームのように、背景に描かれた絵の上に文字が出て、物語が読み進められるようになっているもので、ゲームからつくったものと、普通のノベルに絵を加えてつくられたものと2種類あります。絵のクオリティも高くしていますので、文字を消して絵だけを見る方も少なくありません。ゲームをコンプリートする時間がない方が、絵ノベルで気になる結末を読むといった楽しみ方もあります。このコミックシアターと絵ノベルは弊社の独自開発で現在特許申請中、今後もコンテンツをどんどん増やしていきたいと思っています。

- 海外展開もお考えだと聞きました。

現在すでに日本の漫画を英語版と中国語版に翻訳して海外に発信していますが、今後はこの海外展開にもさらに力を入れていくつもりです。小説や漫画など、日本の優れた作品は海外でも、特にアジアでは非常に人気があります。ただどうしても海賊版が多く出回っていますので、クオリティの高い本物の作品を積極的に紹介していこうと思っています。

- 新しいパピレスプラスのサービスもあるとか?

本や新聞、雑誌の内容を分割し、章ごと記事ごとの販売を開始いたしました。「成功への投資は10円から、5分で読める電子書籍サイト」というキャッチコピーのもとに、自分が読みたい記事や文章を1記事10円から購入できるシステムです。自分に本当に必要な情報だけを集めておくこともできますし、少し内容を読んでから実際に購入するかどうかを決めることもできます。サイト自体を情報サイトのようなデザインで構成しているため、ニュースを見るような感覚で本の内容をチェックできます。ネットに溢れるニュースは匿名性が高くソースが何なのか分からないものも多くありますが、こちらは一度紙になっている情報なので著者名も分かり、信頼性が高いと自負しています。本離れが叫ばれていますが、一冊読み終えるのはハードルが高くても、必要な部分だけを選んで短く読み終えられるなら活字に親しむ人が増えるのではないかと期待しています。

- 起業を志す人へのメッセージをお願いいたします。

私自身が起業をしたわけではありませんが、世の中に必要とされているサービスや自分で興してみたい事業に踏み出すことはすばらしいことだと思います。ただ、新しいサービスがすぐに受け入れられることや理解されることは非常に稀で、常に困難が伴うはず。短期的に成功することを期待せず、諦めずに信念を持って続けることが大切です。弊社も創業当時は理解されないことばかりで、20年経ってやっと…という部分は多い。ですが、これも諦めずに続けてきたからに他なりません。継続できるような経営を考えて、続けていくことが大事だと思います。