“世界のエンタテインメントの「メイド・ウィズ・ジャパン」を担う”

株式会社ディー・エル・イー
代表取締役
椎木隆太

インタビュー: 2014/09/12

大学卒業後、ソニー株式会社に入社。シンガポール駐在、ソニーベトナム・ハノイ支社長などを務め、帰国後はソフトウェアビジネスに携わろうと株式会社SPEビジュアルワークス(現ANIPLEX)の海外ライセンス部門長に就く。ソニー株式会社を退職し、2001年に有限会社パサニア設立。2003年、株式会社ディー・エル・イーに商号変更。代表作に『秘密結社 鷹の爪』『パンパカパンツ』など。欧米、アジアの有力パートナーと多数提携し、日本発のクリエイティブ力を武器に世界で広く事業を展開している。

生年月日:
1966年
出身:
静岡県
出身校:
慶応義塾大学

- 子供時代についてお聞かせください

同級生と遊ぶよりも、4歳違いの兄や兄の友だちと遊ぶことが多く、年上の人と会話するのが好きでした。「全然勉強しないのになぜか勉強のできる子」というタイプでもあり、将来は総理大臣や有名人などのビッグな人間になるんだと思い上がっているところがありました(笑)。中学・高校時代はテニス部でしたが、部活動に熱中するわけでもなく、かといって真面目に勉強するわけでもないという、今振り返るとかなり中途半端な学生時代を過ごしていたと思います。大学受験も案の定、不合格で東京へ出て予備校に通うことになり、ここで初めて「勉強しなきゃ、将来のことを考えなきゃ」と、思うようになったのです。

- 起業を意識したのはいつ頃ですか?

会社の社長になりたいというのは、小さい頃からの夢でした。僕の両親は地元でブランド力のある写真館を経営していたので、両親を見ながら自然と会社経営をしたいと思うようになっていたのでしょう。そもそも地方は、八百屋さんにしても農家の方にしても、皆社長みたいなもの。ですから、社長以外の選択肢を考えたことがありませんでした。

- 大学卒業後は一度就職されたそうですね

大学を卒業してから、社会勉強の意味でソニーに就職しました。学生の頃から社長になりたい、起業しかないという想いは強かったものの、起業に必要なネタが見つかっていなかったためです。当時は、バブル真っ盛り。学生時代=社会人になるまでの遊ぶ期間だと捉えていて、社会のことは社会人になってから学べば良いと考えていました。ソニーを選んだのは、僕が最も尊敬している起業家がソニーの盛田さんだったからです。「世界で勝負できる社長になろう」という目標はクリアだったので、盛田さんの下で働きたい、学びたいとソニーに入社しました。

- ソニーではどのような仕事を手がけられたのですか?

最初に配属されたのは、後にインターナショナルマーケティング部と呼ばれるソニーのいわば花形部署。その部署ではマレーシア、シンガポール、中南米や中近東など、各地で名を馳せたツワモノ達が次の赴任地に就くまで、東京で数年過ごすようになっていました。世界各地の社長を勤めてきた個性の強いメンバーに囲まれて、ソニーってめちゃくちゃすごい会社だなと驚いたことを覚えています。僕の中で起業家というのは会社員よりも凄い武器をもっていないとダメだと思っていたのに、会社にも凄い人がたくさんいると気づくと同時に、自分の無力さを思い知ったきっかけにもなりました。

- 映像コンテンツを扱うようになったきっかけを教えてください

ハードウェアはある種”団体戦”の部分があるビジネスなので、起業には向かないと思っていました。また、東京、シンガポール、そしてベトナムでのハノイ支社長勤務を経て、自分の中でハードウェアビジネスはマネジメントまで見たなという満足感があったんです。そして当時、ソニーはソフトとハードの両輪だとよく言っていたので、ソフトの方も経験したいと思い、ベトナム支社長を終えたときにエンタメ業界のソニー関連会社や部署をいくつか訪問して、自分を本当に必要としてくれるところを探し始めました。当時ちょうどポケモン全盛期で、ソニー自体もアニメーションビジネスを始めよう、ハリウッドと日本のアニメをつなごうという大きな設計図を描いており、そこで僕がその中のキーパーソン的役割を担うことになったというわけです。

- これまでに手掛けた作品を教えてください

最初はコンテンツの制作ではなく、コンサルをやっていました。ヒットした『秘密結社 鷹の爪』は3作品目で、その前は「相撲レスラーが地球を救う」というコンセプトや「歌舞伎の格好をしたベビーシッター」という作品で、いずれも世界向けに企画していました。歌舞伎・寿司といった日本的なものをフックにヒーローものを作れば上手くいくだろう思っていたんですね。ところがどの作品もほとんど反響がない。そのとき、プロデューサーがイケると考えた企画をそのまま動画にして持って行くだけではダメで、ハリウッドで勝負するには世界に誇る日本のクリエイターとプロデューサーの考えが化学反応したクリエイティブが必要なんだと気付きました。そこでCGクリエイターのFROGMANと出会い、第一弾として世に送り出したのが『秘密結社 鷹の爪』でした。

- 現在のアニメーションの方向性は?

本質美、シンプリシティを大切にしています。ソニー製品が美しいと言われるのは、機能美を追究して本質的な物だけを残しているからだと思います。同様にDLEの画もすごくシンプルですよ。本質を見抜くのは大変な作業ですが、余計なものを無くし、スピードやコストを極限まで減らしていくようにしています。すると、ごまかしがきかなくなるんです。我々がやっているようなパラパラ漫画みたいな画だと、脚本が本当に面白くないと笑ってもらえないし、感動してもらえない。画が美しければ、脚本のいい加減さや矛盾点ですら、ある種の”狙い”として捉えられることもあります。ですが、僕は「エンタテインメントの本質は脚本にある」と思っているので、画をシンプルにすることで脚本を最大限剥き出しにし、評価してもらいたいのです。この僕のこだわりは、ソニーの美学と似ている部分だと考えています。

- 今後の事業展開について教えてください

基本的には、日本のエンタテインメント会社の概念を変えるようなことをしたいですね。ビジネスのスケールでいえば、日本国内に留まるのではなく世界としっかりと組める会社でありたいです。自力で作品を作ることもあるだろうし、他社や海外のメディアカンパニーとがっつり組むこともあるでしょう。また、海外のメディアカンパニーにとって、最優秀のコンテンツサプライヤーでありたいですね。それも、「日本でこんな作品を作ったから…」と押しつけるのではなく、そのメディアに対して「御社のターゲット視聴者にはこういうものが必要ですね、それでは3週間後にお望みのものをお届けします」と相手に応じてわざわざ作ることを考えています。僕たちは低コストで済むよう簡易的なアニメーションにしているので、各メディアのコスト感に応じた仕事が可能なのです。さらに言えば、上映後にお客さんのリアクションを見ながら作品を修正できるのも当社の強みですね。この柔軟性が僕たちの高付加価値だと認識しています。柔軟にマーケットに合わせて対応しながら、世界中のエンタテインメント業界における”メイド・ウィズ・ジャパン”を担っていきたいと考えています。

- 国ごとに異なる”笑いのツボ”に対応するのは大変では?

海外を意識したモノづくりは、既に僕らの日常になっています。ニューヨークのオフィスの人間が年に2回程、2、3か月間日本に来るので、海外の脚本の作品意図を学ぶ機会もあります。また台湾にあるオフィスにも駐在員を送ったり、アメリカ、台湾、タイ、それぞれ現地の人とスカイプを使って密にやりとりすることで、スピード感のある情報共有、国ごとに応じた作品づくりをしていますよ。

- 起業を志す方へのメッセージをお願いします

僕は大企業とベンチャー企業、両方で仕事を経験しました。大企業もベンチャー企業も双方とも素晴らしい点があって、若い人にも是非両方を経験してもらいたいなと思っています。大企業には大企業ならではのダイナミズムがあり、とくにソニーの場合は”世界を熱狂させた”という心の底からモチベーションが湧き上がるような経験ができましたし、大勢の人を巻き込み、仕掛けていく仕事ができるのも大企業ならではです。一方で、自分が会社をひっぱっている、作っているんだという気概を持ちながら仕事に没頭するというベンチャーならではの経験は、間違いなく自分を成長させますし、むしろ成長という点ではベンチャーに軍配があがると思っています。僕は大企業からベンチャーへという順番でしたが、逆の方が良いかなと思っています。若いうちにベンチャーで経営に近い感覚を養って、大企業で広い視点で物ごとを見られる人材として活躍すれば、より一層、大企業のダイナミズムに貢献できると思います。

- 座右の銘はございますか?

「塞翁が馬」という言葉です。過去に成功した時に天狗になってしまった自分に反省しながら、出来事に一喜一憂せずに過ごしたいと思うようになりました。たとえば今、上場したことを「すごいですね」って評価されることがあります。今この一瞬だけ切り取れば、ある程度の成功だと言えるかもしれませんが、5年後には歯車が狂って転落するかもしれない。じゃあ転落したところだけを切って不幸なのかといえば、転落したからこそ大事なものに気づくこともあります。だから、失敗しても過度に落ち込まずに前向きに捉えれば良いし、逆に成功した時は謙虚に気を引き締めていけば良いと思います。

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