“持続可能な農業でおいしい野菜を”

株式会社坂ノ途中
代表取締役
小野邦彦

インタビュー: 2014/04/25

京都大学総合人間学部在学中に「環境x農業」の分野での起業を志す。2006年、キャンパスベンチャーグランプリ(cvg)大阪特別賞を受賞。大学卒業後、外資系金融機関で2年間勤務。2009年に「百年先も続く、農業を。」をテーマに野菜提案企業「株式会社坂ノ途中」を創業。新しい農業モデルの確立を目指す。2010年、京都文化ベンチャーコンペティションで京都府知事賞最優賞を受賞。2012年、世界経済フォーラムグローバルシェーパーズに選出。農薬・化学肥料に頼らない農家を増やそうと日々、奮闘している。

生年月日:
1983年
出身:
奈良県
出身校:
京都大学

- どのような学生時代でしたか?

奈良の実家では出費を減らすためと父の糖尿病のために畑を借りて農作物を育てていたので、新鮮な野菜をたくさん食べて育ちました。高校時代はアルバイトばかり。大学に入って一人暮らしを始め、スーパーで買った野菜があまりにもおいしくなくてびっくりしました。それが農業問題に興味を持つきっかけです。大学時代に友人と若い世代にカジュアルな着こなしを提案する着物屋を運営するようになり、自分が伝えたいメッセージを発信するためのビジネスもあるんだと気づきました。着物屋を後輩に引継ぎ、1年間休学して海外をバックパッカーした経験から、できるだけ環境に負担をかけない生き方をしたいと思い、それを提案するビジネスをしたいと考えるようになりました。

- 起業のきっかけをお聞かせください

人と自然の結び目である農業がほころんでいると感じ、農業×環境の分野で起業しようと思いたちました。社会経験をするために2年間、外資系の金融機関にも勤めました。起業のためにいろいろな人と会い、尊敬できる農家さんたちに話を聞くと「結局は売り先の問題だ」と言います。新たに農業を始める場合、農地を借りることが第一歩となります。空いている農地は水はけが悪い、狭い、日当りが良くないなど不利な条件であることが多く、いくら高い栽培技術をもって一生懸命働いても収穫量は少量、不安定になりがちです。そうした農産物を、率先して扱いたがるバイヤーはほとんどいません。これが大きな要因となって、農業を志す人は多いのにほとんどの人が現実を知って就農を諦めます。ごく一部の人が就農までたどり着きますが、それもたいていの場合は長く続かない。これはもったいないと思い、新規就農者が農業で生活できる仕組みづくりをしようと考え、今のビジネスを始めました。

- どのようなビジネスをされているのでしょうか?

新規就農者には広い農地や農機具、ビニールハウスはありませんが、栽培技術と情熱があります。一軒一軒では少量で不安定な農家をグループ化し、栽培のスケジュールなどをいっしょに調整して全体の生産量を増やし、安定させ、品種のバリエーションを確保して販売しています。栽培期間中、農薬・化学肥料を使わず化石燃料の依存度を下げて環境負荷を低減し、一番大事な土壌づくりを行い、気候に合わせて農産物を選択しています。年間で300種類ほどの品種を扱います。パートナーを新規就農者に絞って事業として成立させているのは日本国内で弊社だけだと思います。規模はまだ小さいですが新しい挑戦ができている手応えを感じています。

- 社内で共有している文化や理念は?

今の快適な暮らしは、未来や遠い国など想像の範囲外の人たちに大きな負担を押し付けて成り立っています。そんな社会の有り方に僕たちは違和感を持っていて、「未来からの前借り、やめましょう。」というメッセージを発信しています。そのために、環境負荷の小さい農家を増やし、持続可能な社会に辿り着きたいと考えています。たとえば震災後、被災された農家の方に関西への移住を提案し、移住者を招き入れることができました。社名である「坂ノ途中」には、「成長の途上にある有機農家のパートナーでありたい」という意味を込めています。事務所の1階に小さな直営店を持ち、不安定さを吸収できるようにしています。また、既存の流通業者が避けたがる小さな生産者との細かいやりとりに時間をかけています。

- 失敗談的なエピソードはございますか?

今はもうありませんが、狭い出荷場で時間に追われて発送作業をしていて、送り先を間違えたことがあります。神戸の中華料理店に送るべき野菜を、大阪のイタリアンレストランに送ってしまいました。チンゲン菜などのイタリア料理ではあまり馴染みのない野菜が多かったのですが、そこのシェフは「イタリアンに変身させるから普通に請求してもらってかまわない」とおっしゃってくださり、救われたことがあります。

- 野菜への想いをお聞かせください

おいしいから子どもがばくばく食べるとか、子どもの好き嫌いが減ったといった喜びの声をお客様からもらうことが多いです。ちゃんと育てられたものを食べていると、味覚や体調も変わると思いますが、それだけでなく、メンタルも変わってくるように思います。僕の場合、サラリーマン時代はPCに向かい続けながら会社の机で朝も昼も夜も食事をとっていました。その頃に比べると、今は圧倒的にキレにくくなったように思います。子どもが季節感を気にするようになったといったコメントももらったことがあります。そして、良い野菜は手をかけずに料理できるのもすばらしいですね。塩で炒めるだけ、みそ汁に入れるだけで、体に染み込むようなおいしさがあります。

- 今後の展開はどのように考えていますか?

いろいろな国でその土地のコンディションに合った農作物を作っていきます。一昨年から東アフリカ・ウガンダの乾燥した地域で有機栽培の技術指導をしています。次はベトナムでの展開を模索しています。いろいろな国で栽培するだけでなく、人を交流させたいです。昨年から自社農場で人材育成を行っているのですが、農業スキルを身につけた人が海外で挑戦したいのであればその後押しをしたいですし、いわゆる途上国から栽培技術を学びたいという人たちを受け入れたりすることで、国境を越えた役割分担で環境負荷を低減し、地球環境の保全に取り組んでいきたいと思います。日本はこれから猛烈な勢いで就農者が減り、耕地が空いていきます。一般的にはピンチとして捉えられていますが、新しく農業にチャレンジする人にとってはチャンスです。新規就農者が持つ特有の課題やその方たちの特徴をいちばん把握しているのは弊社です。自社農場で栽培技術を磨き、販売者サイドの目線・価値観を理解して独立または農業生産法人に就職する人を3年後に年間100人程度を目標に増やしたいと考えています。

- 起業を志す方にメッセージをお願いします

とりあえず起業したら良いと思います。「起業しようと思うんです」と弊社に訪問される方は多いですが、そういう人はたいてい起業しないですね。「あれとこれがそろったら起業します」という人はその条件がそろったら「さらに違うものがそろったら起業しよう」と、起業しない条件をそろえている気がします。行動しない自分を責める自分がいて、その自分への言い訳を考えているのでしょう。この人のために何かしたいと思えるかどうかは、その人が行動しているかどうかです。「起業したいんですけど、しなくても生きては行けます」という人には親身になれませんが、たまに来る「よくわからないんですけど、会社を作って従業員も雇って、でもお金がなくなりそうなんです」という人には大丈夫かと心配になって、つい親身になってしまいます。どれだけ人を巻き込めるかってとても大切だと思います。

- 座右の銘はございますか?

「大道楽」です。司馬遼太郎の「坂の上の雲」に出て来る秋山真之は日露戦争でロシアに勝つために常に作戦を考えていました。それを「これが私の一生の大道楽で、これほど楽しいことはない」と言ったのです。農業分野にはどうしても暗さが付きまといがちですが、だからこそ楽しんで取り組みたいと思います。もう一つは「細部に神は宿る」 です。買い続けていただくにはディテールが大切だと思っています。野菜はスーパーに行けば同じ形の物が安く、すぐに買えるので、便利さでは圧倒的に弊社は弱い。ですが、たとえば提携している農家でオクラの向きをぴしっとそろえている方がいて、それは見た目がとても美しい。そうしたディテールの積み重ねが不便さを乗り越えるのだと思います。